小学生の頃から本が好きで、学校の図書館に入り浸り、とくにＳＦ小説が大好きで、借りては読みまくっていました。読むだけではなく、自ら漫画を描いては製本し、高学年の時には学級文庫に手作りのシリーズ本を置くなど、本作りの楽しさに目覚めた時期でした。
本好きはその後も続き、中学高校も図書館に足繁く通っていました。

大学は、実利に直結しなさそうなという理由で文学部を選択。２回生の夏休み、友人に誘われて他大学の司書課程に学んで資格を取得。元来本好きの私が生涯、本と関わるきっかけになりました。新卒時の就職先は、司書として教育委員会に。市民図書館のモデルをつくった前川恒夫さんが当時、滋賀県立図書館長をされていて、滋賀県に全国から志ある図書館人が集まっていました。人口１万人未満の小さな町、湖東町（現・東近江市）の図書館開設準備室で、ゼロから図書館を創る仕事に携わりました。

学生時代、英語が苦手だった私ですが、その反動もあって、社会人になってから俄然、韓国語と中国語を学び始めました。超短期語学留学をしたりして、本格的な留学に憧れた時期も。
ある日、かもがわ出版の編集長から「うちに来ないか」との電話をいただき、お世話になることに。「平和と民主主義、環境と人権を守る」ことを旗印に出版された本に囲まれ、社会問題の多さ、深刻さを学びました。また、他出版社との繋がりもでき、とくにお茶の水周辺での交流が、自ら出版社を興すきっかけになりました。

３０代前半、一念発起して起業のため退社。１年間、職業訓練校の印刷デザイン学科で印刷の基礎を学びました。
翌年、金壽堂出版を創業。出版活動と並行して、外国語の翻訳印刷事業を開始。印刷学校で学んだ技術と、韓国語、中国語の知識使って、自治体やゲーム会社などの翻訳印刷物を制作。小社の新刊第一弾は、名古屋大学からの助成をいただいて発行した『東アジアの民俗と環境』。また、収入の少ない草創期、蒼々たる先輩出版社が継続的に仕事を与えてくださいました。あらためて感謝申し上げます。

２００４年、平成の大合併で生まれ故郷が葛城市に。それをきっかけに故郷に戻り、屋号・金壽堂出版を法人化しました。また、誕生したばかりの市が設けた市政モニター制度に応募、市政に興味を持ちました。市民有志とともに情報発信活動を始め、のちにＮＰＯに発展しました。
韓国語と中国語とを学んだことが会社の創業期、翻訳印刷事業に繋がりましたが、２０１０年、語学専門出版社・アスク出版の関西事務所を開設。同事業では、主に日本語、韓国語、中国語、英語テキストの書店営業を行っています。
２０１７年、葛城市議会議員に初当選。三足のわらじで日々がんばっています。

1968年　奈良県北葛城郡新庄町（現・葛城市）生まれ
奈良県立畝傍高等学校、立命館大学文学部卒業
滋賀県湖東町(現・東近江市)で司書として図書館開設業務に携わる
株式会社かもがわ出版(京都市)に勤務。情報発信の大切さを学ぶ
2001年　京都府立高等技術専門校印刷デザイン学科に入学
2002年　大阪府枚方市にて一人出版社（屋号：金壽堂出版)を創業
2004年　葛城市誕生に合わせて葛城市に移転して有限会社に
2008年　市民有志とともに市の情報発信活動を開始（のちＮＰＯに）
2010年　株式会社アスク出版(東京都新宿区)関西事務所を開設
2017年　葛城市議会議員に初当選（現在２期目）

田所　清克先生
京都外国語大学教授 外国語学部・大学院教授

リベラル･アーツに長けた、真の意味の教養人である吉村始さんが、この度、孤軍奮闘されて出版社を興された。
その名も「金壽堂出版」。私などには、出版業はまさしく吉村さんにとって、うってつけの天授の職業のように思われる。
「金壽」なる言葉は、字面から意味するところはある程度、推し量れるが、吉村さんがその言葉に懸ける想いとその根底にあるコンセプトはおそらく、海原のようにはるかに深大ものに違いない。
ともあれ、謹厳実直で人間愛にみちたお人柄に加えて、貪欲なまでの好奇心と知識欲を具えたこの人の手からはたして、どんな書籍が生まれるのか、今から楽しみである。
「山椒は小粒でも…」の諺がある。さながら砂金のように小粒にしてきらりと耀き、えも言われぬ芳香を放つ、金木犀のごとき存在。これが花を愛してやまない私の「金壽堂出版」に対するイメージであり、期待でもある。
末尾ながら、一人出版社の強みを遺憾なく発揮されて、はや日本では失われて久しい教養の土壌を再び耕す意味で、その急先鋒になって出版文化の普及に努めていただきたく思います。